東京地方裁判所 昭和56年(ワ)11949号 判決
一 請求の原因1及び2については、当事者間に争いがない。
右争いのない本件明細書の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明は、ドライアイスの白煙発生装置に関するものであつて、「ドライアイス室の上部に多数の白煙案内パイプを連通させるとともに、これらパイプの総開口面積を、白煙を発生するドライアイス室の横断面積よりも小さくし、かつ受台の周囲部に前記パイプの外端を開口して白煙を噴出又は漂わせること」が発明の構成に欠くことができない事項とされていることが認められる。したがつて、本件発明は、ドライアイス室から受台の開口まで白煙を案内する手段としては、右のような「白煙案内パイプ」を設けることを構成要件の一部とするものであると認められる。
二 請求の原因4については、受台5が着脱自在であり、これに代えて他の形のものを装着することができることについての留保があるものの、当事者間に争いがない。
右のとおり被告製品を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙目録によれば、被告製品は、ドライアイスの白煙発生装置であつて、「ドライアイス室4の上部と、内部に空洞13、上面周囲部に多数の開口部14を有する受台5とを、接続管10、12により連通させて、接続管10、12、空洞13及び開口部14により白煙案内部15を形成し、該白煙案内部15の総開口面積を、白煙を発生する前記ドライアイス室の横断面積よりも小さくして、白煙を噴出又は漂わせるもの」であることが認められる。したがつて、被告製品は、ドライアイス室4から受台5の開口部14まで白煙を案内する手段として「接続管10、12、空洞13及び開口部14により形成された白煙案内部15」を設けた構成を有すると認められる。
三 本件発明の前記構成要件と被告製品の前記構成とを対比すると、後者は白煙を案内する多数のパイプを設けたものではないから、前者を充足するものではないことが明らかである。
原告は、白煙案内手段に関し、本件発明も被告製品も、ドライアイス室上部と受台周囲部の多数の開口とを連通して、ドライアイス室に発生し充満加圧されたドライアイスの白煙を受台周囲部に誘導し、受台周囲部の多数の開口から右誘導した白煙を噴出又は漂わせるよう作用するもので、同一である旨主張するが、仮に、原告主張のようにこれらの作用が同一であつたとしても、これらの作用を奏するため、本件発明においては、多数の白煙案内パイプを設けることを特許請求の範囲に明記し、これを欠くことのできない構成要件とした以上、白煙案内パイプを有さない被告製品の白煙案内部15が、構成において本件発明と異なるものであることは、多く論ずるまでもなく、明らかであるといわねばならない。
また、成立に争いのない甲第一号証(本件発明に係る特許公報。別添特許公報と同じ。)によれば、本件明細書の発明の詳細な説明中に、次の各記載があることが認められる。
「ドライアイス収納容器11の上部周囲に傾斜を設けてドライアイスの白煙の流れを助長し、最上部の天井には多数の孔を形成して多数の白煙案内パイプ13に接続してある。第1図に於いて1本のパイプのみを示したのは、パイプが先端に行くに従つて細くなつていることを明示するためであり、拡大して示してある。パイプを先細にしたのは前記ドライアイス収納室11に傾斜部を設けたことゝ同様の理由である。ドライアイスの白煙は白煙の流れ方向の断面積を順次又は段階的に小さくしないと上部に流出し難いことが実験により確認した。」(公報2欄三七行ないし3欄一一行)「このパイプも漸次径小となつているため、白煙はパイプの途中で止まることなく、円板状部材1の上面周囲より噴出する。」(公報4欄一八行ないし二〇行)「以上の如く本発明の構成によれば、受台の全周囲部に均等な間隙を設けることなく、白煙案内パイプにより白煙を選択的に噴出させたり漂わせたりすると共に変化に富んだパイプの設置によりデイスプレー効果や演出効果を期待することができ、且つ受台の全周囲に均等な間隙を形成させる技術的な問題や精度のバラツキ、経済性等の点に関しても多くの利点を有する。」(公報4欄二四行ないし三一行)「更に又、本発明の構成によれば、ドライアイス室の上壁部周囲に傾斜部を形成すると共に漸次径小とした白煙案内パイプを設けたので、ドライアイスの白煙が円滑に導出され、白煙の噴出が出来る等、変化に富んだ演出効果の高い白煙を提供することが出来る。」(公報4欄四二行ないし5欄三行)これらの記載によれば、本件発明における白煙案内パイプが先細りのものに限定されると解すべきかはともあれ、白煙案内パイプを設ける構成をとることの利点が種々強調されていることが認められる。
右のように、白煙案内パイプを設ける構成を発明の構成に欠くことのできない事項として明細書の特許請求の範囲に明記した上、発明の詳細な説明において右構成をとることの利点を種々強調していることは、右の構成が、出願人によつて意識的に、本件発明にとつて不可欠の要件であるものとして出願されたものであると解することができる。そして、被告製品が、本件発明の多数の白煙案内パイプを設ける構成を具備しないことによつて、白煙充満部の容積の増大を招くし、内空部の気密性、耐水性にも難が生ずることになるなど、本件発明の右構成による作用効果を十分に奏しないことは、請求の原因6(二)で原告の自認するところであるから、被告製品が本件発明と均等であるとする原告の主張は、主張自体失当というべきである。
以上のとおりであるから、被告製品は、本件発明の前記構成要件を充足するものではなく、また、これと均等と評すべきでもないから、その余の点について対比検討するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属するものとは認められない。
四 よつて、本訴請求は理由がないから、これを棄却する。
〔編註〕 本件特許発明に関する事項は左のとおりである。
1 原告は、次の特許権(以下、「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する。
特許番号 第一〇三六〇二七号
発明の名称 ドライアイスの白煙発生装置
出願日 昭和五一年一〇月二六日
公告日 昭和五五年七月一六日
登録日 昭和五六年二月二六日
2 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「ドライアイス室と、ドライアイスの融解温水用加熱装置を有する温水室と、該温水室の温水を所望の時に所望の一定量前記ドライアイス室のドライアイスに与えてドライアイスの白煙を発生するための装置と、前記ドライアイス室の上部に設けた受台とを備え、前記ドライアイス室の上部に多数の白煙案内パイプを連通させると共に、これらパイプの総開口面積を、白煙を発生する前記ドライアイス室の横断面積よりも小さくし、且つ前記受台の周囲部に前記パイプの外端を開口して白煙を噴出又は漂わせることを特徴とするドライアイスの白煙発生装置。」